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大阪高等裁判所 平成12年(ラ)370号 決定 2000年5月29日

抗告人 甲山X

法定代理人親権者父 甲山A

法定代理人親権者母 甲山B

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「X」を「X1」に変更することを許可する。

理由

1  本件即時抗告の趣旨及び理由

別紙書面のとおり。

2  申立ての趣旨及び理由

原審判2ページ6行目「「X1」」の次に「([X1]と読ませる。)」を、同末行の次に行を改めて「そして、本件申立てに対する原審判がなされた後も、本人の努力にも拘らず、母の精神状態にはあまり改善はみられず、父母は夫婦喧嘩を繰り返している状況にある。」をそれぞれ付加するほか、原審判の理由第1に記載のとおりであるから、これを引用する。

3  当裁判所の判断

一件記録等によれば、抗告人は平成12年○月○日に出生し、同月20日に父により出生届がなされたが、同年2月2日に本件申立てがなされたところ申立ての理由欄(前記付加のうえ引用にかかる原審判の理由第1の2)に記載のような事実が概ね認められる。

そこで判断するに、一般的に、嫡出子の命名については、父母の共同親権行使の原則上、父母間の協議によって行われるべきものであって、父母の一方が、他方に相談することなく勝手に命名した場合や父母間の協議結果と異なる名の届出をした場合は、他方がこれを追認しない限り、適法・有効な命名があったことにはならないというべきところ、本件においては、母が「X」という名を追認したことは認められない。そして、前記認定の申立ての理由欄記載の事実は抗告人本人の事情とはいえず、抗告人本人にとって直接改名の必要性の理由となるものではないが、本件においては、父が抗告人の名を「X」と届出てしまったことが影響して、母は精神的に不安定となり、体調を崩しており、父母が夫婦喧嘩を繰り返している状況にあるのであって、このような環境下での養育が抗告人の精神的発達に悪影響を及ぼすであろうことは十分予想されるところである。このような子の福祉の観点のほか、抗告人は生後4か月の乳児であり、戸籍上の名が未だ定着していないから、名の変更による弊害が少ないし、永年使用等の理由でいずれは変更される可能性も大きいとみられ、そうであれば、早期に変更を許可するほうが良いともいえる。なお、変更後の名「X1」を「X1」と読ませるには若干苦労が伴い、決して平易明解な名ではないといえるものの、最近の傾向として、もっと難解な、当て字のような命名も多く見受けられることを考えると、難読と断定することは躊躇せざるをえない。

以上の諸事情を勘案するときは、本件改名の申立てには、戸籍法107条の2所定の改名の「正当な事由」があるというべきである。

4  結論

よって、これと異なる原審判を取消し、本件申立てを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井筒宏成 裁判官 古川正孝 和田真)

(別紙)

抗告の趣旨

「上記審判を取消し、本件を神戸家庭裁判所姫路支部に差し戻す。」との裁判を求める。

抗告の理由

○ 「X1」の文字は、漢和辞典にも記載されている読み方なのにどうして難読と思われるのか。

○ 母親の精神的な事情による改名の必要性が考慮されていないが、法律上では認められなくても、申立人が実際生活し育っていく上では必要である。将来名の変更許可を求める可能性があったとしても、今現在の状況を一番に考慮してほしい。申立人の将来がどうなるか不安な状況である。

○ 夫婦喧嘩が絶えず出現し、ともすれば母親がノイローゼ状態となり、子供にわめきちらす事も多く、自殺したくなる。どうすればよいのかわからない。

○ 母親がこの子の名を呼ぶ度に、後悔したら、一生心に傷を持ち続け、子供に愛情はあっても名前は愛せない。片寄った愛情に恐怖を感じる子育てで、果たして人権は守られるのだろうか。

○ 出生届提出の時点で勘違いがあった。本来「X1」という名になるべきであり、「X」は間違った名である為、どうしても訂正したい。

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